「えー、それきっと悪魔だよ」
18の時バンドやってたメンバーのママが、メンバーの家でメンバーと酒飲みながら話してくれた奇妙な昔話。
人はどこかで何かしらの形で悪魔と何かしらの契約をしているらしい。
契約の代償は大小あれど、基本的には寿命だったり、ソイツの生に対するエネルギーだったり渇望する物へのエネルギーだったり。
どこでどんなタイミングで現れるかわからない、けど奇妙に、記憶にやけに残るタイミングでやってくるらしい。
オレも例外ではなく。
冒頭の「」にもだろう。
この日は確か当時のバンドメンバーの家で曲を作ってたんだと思う、ライブもすげえ本数やっててイライラしながらメンバーの家で曲作ってたんだと思うよ。
気分転換するべってうちのリーダーが言って、みんなでタバコ吸いにそいつの家の居間に行ったんだ。
そしたらそいつのママが晩酌してて、まあ当然のようにオレ達も混ざることになって。
「何日も止めてもらってすいませんね、あ、そういえばこんな夢見たんですよ」
ってんでほんとに酒の肴程度の話をしようと思って話し始めたんだと思う。
これはあくまでも今現在鮮明に覚えてる当時見た夢の内容を書き綴ってるだけにすぎない。
舞台はどこだかわからないんだけど、とりあえず大きな都市の大きな交差点、西武新宿駅前の交差点みたいな雰囲気だったかな。
そこでメンバーと2人で歩いてたんだ、そしたら向こうから2メートル近い足の長い初老のお爺さんが歩いてきてすれ違った。
「靴紐が解けているよ」
そのおじさんはオレとメンバーとすれ違うや否や近所の子供に話しかけるくらいなテンションで優しく話しかけてきた。
確かオレだったかな、履いてたブーツの靴紐が解けてて、ありがと!とかって言いながら靴紐結んだんだよね。
そしたらそのおじさんが指を刺し始めたんだ、オレ、バンドメンバー、オレ、バンドメンバー…
何回か往復してオレを指差したんだ、でも「うん、違うな」って言ったんだ。
そして最終的に被ってた帽子を当時のリーダーに被せたんだ。
リーダーは「いらないよ」って言ったんだけどおじさんは「持っておいたほうがいい、もし君が望むのなら」って言って無理やり被せたんだよね。
もちろんその間人の往来は激しい交差点のど真ん中、オレとリーダーの2人とおじさんの周りだけずっとスローモーションで不思議な空間だったの覚えてる。
「もういきなさい」って言っておじさんは結構乱暴にオレとリーダーの肩を突っぱねたんだ。
「もう会わないほうがいい、いい人生になるといいね」って言っておじさんは滑るように人混みに消えていった。
そして交差点渡り切ったあたりでリーダーが「被ってきたくらいしっくりくるんだけど、この帽子」って言ってたの覚えてる。
そのあとはたぶん目が覚めてその前後の事はもう覚えてないんだけど、妙に不思議な夢だったなって思ってその夜にメンバーのママに話したんだ、そしたら冒頭の「」ってね。
別にそれがなんだってわけじゃないしオレもリーダーも今だに生きててバンドやってるし、お互い泣かず飛ばずで必死こいて自分の嘘を本当にしようと日々もがいてるわけだし。
もし仮に夢に出てきたおじさんが悪魔だとしたらオレは何を捧げたのか、むしろ否定されてオレは悪魔にすら選ばれなかったのか。
そして仮に悪魔に選ばれたリーダーは27の時になにを失うのか、はたまた27でうんぬんかんぬんっていう噂は本当に噂でしかなかったのか。
信じちゃいない、けど否定しているわけでもない。
そういうジンクスは好きだからね。
さっき一緒に飲んでた友達が「妙な経験をした一日だった」ってんで話してくれて、この話し思い出したから書き綴ってみた。
27で死ぬだなんだってのは、ただのヤク中の世迷言でしかないんだと思う。
オレにとっての悪魔なんてのは、いちいちオレの人生に登場して掻き乱していくいい女達だけで充分だ、アクセサリーは間に合ってるよ。
さて、最近めっきり寒くなったね。
一人暮らしを始めて、最初の冬。
シングルベッドは今日も悪魔を受け入れる準備をしてあっためておくよ。