【業務内容】
・親の引っ越しの手伝い
【運転手・交通手段】
・運転手 俺
・交通手段 赤いパンクロックオデッセイ
【積載物】
・母親
・猫2匹
・母親の荷物
【目的地】
ガッデム鹿児島
【ルート】
高崎から陸路で大阪の南港でフェリーに乗り、明日朝、鹿児島の志布志市に着弾予定。
【報酬】
・鹿児島のおばあちゃんを褒めちぎっては投げ褒めちぎっては投げで稼いだお駄賃。
あと少しの人間性(皆無)
【記事】
やっぱり船が怖いから喫煙所で泥酔してる。
ブラックニッカの缶ハイボールがクソまずい。
肘をついて携帯を触っていたら腕が痺れた。
職員室の扉を開けるみたいに、勢いよく扉を開けてオッサン2人が喫煙所に焼酎のカップ片手に入ってきた。
案の定、俺はこのよくわからない酔っ払いのおっさんに絡まれた。
阪神ファンのオッサンだった。
オレは巨人ファンだと伝えた、全く野球興味ないけど。
しかし、唯一知り得る野球の知識の中で「賭博の代表だよね」とだけはちゃんと伝えた。
確かに、鹿児島行きのフェリーに乗り込んだはずなのに、オッサンは俺に言った。
「どこいくの?」(酔っ払ってるから声がクソデカい)
「ロシア」
「え"?」(酔っ払ってるから声がクソデカい)
「あ、ウクライナです」
「鹿児島行きのフェリーなら一緒だろう」(酔っ払ってるからコイツもやっぱり声がクソデカい)
オッサンの連れと思われる小汚いおっさんも混ざってきた。
ビールを片手に持ちながら、俺を指差し混ざってきた。
このての人種は人が"話しかけんなオーラ"を放っているにもかかわらず、野面でずんずん土足で踏み込んでくる。
ビッグツバメ高崎店の海物語のシマの通路側の角台の左右みたいだ。
小汚い。
ロシアもウクライナも行くわけがないじゃないか、こんな畜生のガキにいちいち付き合わなくていいんだよ。
よくわからないけれど「どうもありがとう」
って言われたからとりあえずタバコ一本貰っておいた。
鹿児島弁と関西弁が入り混じった喫煙所はとてもカオス。
燃えないゴミか燃え過ぎたカスみたいなオッサンと、フーテン家業のボンクラが乾杯してる。
"完敗"の間違いだろうか。
俺はとりあえず心の中でコイツらに名前をつけた。
最初に声かけてきた方が"ウラジミール・カマホリ"
指差して来た方が"歯"だ。
ウラジミールはどうでもいいけど、問題は指を刺して来た方だ。
そいつはその名の通り、前歯が一本欠けていた。
船が一瞬左に傾いて、思わず足がよろめいた、タバコの灰が足踏みをした振動で、お気に入りのTシャツに白い線を描いて地面に落ちる。
"歯"が笑ってた、俺の事じゃないだろうけどなんだかムカついたので、ツバでもかけてやろうかと思った。
そのままこの泥舟は、またゆっくり水平を保って「え?揺れた?」と言わんばかりの態度でまた外海を進んで行く。
窓の景色眺めんのもいい加減飽きてきたし、ウラジと歯との泥水みたいな会話も飽きて来たし、てか元々楽しんでもないし。
そんでもってもしかしてでっけえタコやバケモンサメが飛び出してきて、今にもこの船が襲われるかも知れない。
そういう妄想が好きなだけで実際は病気である。
でも考えただけでも恐怖で気が狂いそうになる。
あとシンプルにタバコの吸い過ぎで喉がパキッパキだ。つまり範馬パキ。
クソギャグも面白くねえから寝る前に猫どもの様子を見にいこう。
人間様はてめえらのベッドが用意されてるのに関わらず、ペット様は別の階の別の部屋に留置場みたいなケージが用意されている。
デオシートが床一面に敷かれて、アクリルの壁には縁を描いて小さい穴が空いている。
その面会場のアクリル板のような扉を開けて、ちょっとだけ泣きそうになりながら、麗しの愛猫達をケージに放り込む。
「にゃーん」
「おう」
「にゃーん」
「それな、あんまり人前で言うなよ」
「にゃーん」
「おう」
「にゃーーおん」
「ありがとう、また明日ね」
てめえに都合の良い返事だけをして、ケージのロックを閉じる。
ケージのロックの暗証番号を俺の誕生日にして、俺かお母ちゃんか0826に執念のあるキチ○イしか開けられないようにロックをかけ、猫どもにおやすみの挨拶をする。
隣のケージには一晩中鳴き続けるんじゃないかっていうちゃいちーな鼻の長い犬種の犬が2匹。
コイツらうるせえなあ。
とりあえず「伊勢崎ドン・キホーテ」って名前にした。
おいおい頼むぜブラザー、ウチの猫どもは初めての船旅だぜ、是非とも仲良くしてやってくれよ。
あんまりそう鳴き喚くなって。
クリーム色と黒茶色の2匹、どっちもメスらしい。
「犬と猫って会話できんの?」
「ワンワン」
「おめえら女の子なんだろ、なんかうんこくせえんだよ」
「ワンワン」
「かわいいな、ウチの2匹もなからかわいいんだぜ」
「ワンワン」
「明日までの辛抱じゃん、寝ちまった方が楽だよ」
「ワンワン」
「うるさ、そーなん、じゃあ俺は…2!」
バカとボケが大往生して、そりゃもう大惨事だ。
なんだかとても、一緒に旅してくれてるお母ちゃんに申し訳なくなって、トイレに寄り小便をする、そしてとりあえず人間様が眠れるベッドにたどり着く。
足を伸ばして眠れるし、枕を敷いたその目線の先に小さいテレビと備え付けのイヤフォンが置かれている、携帯の充電器とテレビのリモコン。
俺が住む分にはこんくらいの規模で充分だと思った。
何回も乗ってるはずなのに、慣れない船旅
たった一晩だけの船旅
船内マップは頭の中に叩き込んだ
なんかあった時、空間把握能力だけは嘘つかない
最悪猫どもとお母ちゃんだけは必ず助けよう
飲みかけのブラックニッカの缶ハイボールを、喫煙所に忘れてきたみたいだ。
さっきのオッサンまだいるかな、子汚ねえけどタバコもらってこよう。
やたら肺と肝臓に優しくない船旅だぜ。