傴僂(せむし)

ポケットに手を突っ込んで。

好きでも嫌いでもないジャンルの音楽をシャッフルで聴きながら、感情を紛らわせてみたりする。

やたら10円玉の貯まる街だなこのやろーと悪態をつきたいところであったが、Suicaを持ってない自分が「郷に入っては郷に従う、ってあるだろ」と言っていた。

東京は嫌いじゃない。

むしろ刺激をくれる最先端の場所であると思ってる。

だから嫌いじゃない。

でももちろん好きでもない。

忙しなくすれ違う人達に吹き飛ばされないようにカカトを強く地面に打ち付けて歩いた。

流行り廃りが好きなこの街は、今日も新しい刺激を俺にくれた。

俺の事誰も知らない奴が街を歩いてる。

俺もお前らの事は知らない。

だからいい。

5歩くらいで渡れそうな交差点の、止められた赤信号を見ながら友達が言った。

「右みて左みて車来てなかったら行っていいんだよ」

忙しない街の、忙しない時間の流れに追いつける気がしないと思ったので、その友達の半歩後ろを着いて歩く。

自販機ばかり多くて、小銭とほんのちょっとの幸せでも落ちてねえかななんて下向いて歩いてみる。

「やーい、傴僂」

心の中の俺が言ってきた。

この街に欲しいものはない。

でも、この街に来なきゃいけない理由はある。

…後付けの理由が、お腹いっぱいの俺の腹の中に溜まり続けている。

不感症のビル風が、やたら冷えなと思ってお気に入りの上着を羽織って、急いで友達に追いつくのだった。