登場人物
【俺】つまりは俺、ウルトラでスーパーな男
【アイツ】エロくてニクい、いい仲間
【あの子】エロくてエロい、いい仲間
この物語はフィクションです。
この内容は必然な偶然なだけであって実際とは一切の関係はございません。
「先っちょだけ!お願い先っちょだけ!」
秋がそう言っているような季節の変わり目の肌寒い夜。
アスファルトにゴロンと寝転んで星空をぼんやりと眺める。
点滅しながら暗い空を横切るのは、飛行機か気象衛星。
でも、時々流れ星が流れる瞬間がある。
ロマンチックな野郎だと思われるだろうが、実際に俺は星を見に行くのが好きだ。
誰もいない穴場を見つけては、1人ないし少人数でボーッと夜空を眺めるのが好きだ。
冬の大三角形がちょうど真上に出てくる夜空を見上げると、今年も空がずいぶん近く感じるなと物思いに耽っては、タバコの煙で雲をひいたりする。
仲間達とバイク遊びに興じた後の静けさ。
じゃあね、気をつけて、また走ろうな。
1人、また1人と各々の帰路に着く中、真っ暗な駐車場に俺とアイツとあの子だけが残った。
遠くに離れていくアイツらのテールランプが見えなくなるまで、目で追ってあとは無事を祈りながら排気音が聞こえなくなるまで余韻に浸る。
この瞬間も嫌いじゃない。
あの子が徐にアスファルトに寝転んで「星ちょー綺麗じゃん」と言った。
「アスファルト冷たいからね、身体冷やしちゃダメだぜ」
もっと気の利いた事でも言えれば好感度も上がったのだろうけれど、まあ自分の随分と枯渇した語彙力を呪うよ。
アイツはというと、相変わらず携帯を眺めている。
ぼうっと携帯の明かりで映し出されたアイツの横顔は、バイクに乗っている時の無邪気な顔ではなく、凛々しく、ミステリアスな男の顔をしていた。
はい、モテる男の横顔、出ました〜と心の中で敗北の白旗を挙げたところで、あの子が唐突に声を上げた。
「あ!流れ星!」
流石のアイツも空を見上げた。
もちろん、流れ星なんてとっくに空の彼方に消えて燃え尽きているので、俺とアイツが空を見上げる頃には消えてしまっているのだけれど。
アイツが口を開いた。
「いいじゃん、願い事いいなよ」
低い声で淡々と喋るアイツの話し方は、同じ男でも嫉妬するくらいエロくてニクい。
「流れ星が願いを叶えるって言うのは間違いで、そいつは常日頃からお願い事をしてるんだ、もちろん流れ星が流れてる瞬間も、だからそれを流れ星が願いを叶えてくれたと勘違いしているんだよ」
俺はエロくてニクいアイツになんだか嫉妬して、根も葉もないうんちくを垂れ流した。
「へえ〜」
アイツは携帯を見ながらそう言った。
熱々になって僅かに熱膨張したエンジンが、流れる風の寒さで「チンッチンッチンッチンッ」と小さい音を立てながら縮小し始めている。
僅かな音も耳に入ってくる静けさの中で、ずいぶん長い時間ここにいるんだなと再確認させてくれた。
「ヘルメットあったかい、外せないや」
あの子の頭には、女の子からしたら少し大きめのヘルメットがかぶさっていた。
「確かにそろそろさみいやいな、エンジンも冷えてきちゃったよ」
俺は身体を起こして何本目かのタバコを取り出し、火をつけた。
アイツも携帯を眺めながら、慣れた手つきでタバコを咥え、火をつけた。
「明日何時?」
無職の俺が言えた義理ではないが、2人の次の日のスケジュールを聞いてみた。
次の日の仕事に差し支えたら大変だからね、俺なりの配慮ってヤツだ。
「俺?俺は6:30」
アイツは言った、ごくろうさん。
「私普通にいつも通り」
あの子も言った、もちろんごくろうさん。
「俺、明日は仮面ライダークウガのソフビに色を塗るんだ、みんな忙しくていいじゃない」
アイツはフッと鼻で笑って、呆れていたように見えた。
秋が始まろうとしている。
タバコを吸い終わる頃には、俺達は立ち上がって帰路に着こうとしていた。
ふと空を見上げる。
「あ、流れ星」
俺の独り言は、アイツのエンジンが始動する音にかき消された。
秋の夜空に流れ星。
立ち去る3台のバイクのテールランプは、流れ星のように、煌めきながら、消えていった。