世捨て人のセレナーデ

 

ちょっとだけ風が冷たくなってきた。

駆け抜けられなかった夏の残り香が、曇った夜空に飲まれて溶けていく。

俺は嘘みたいに静かな、寝静まった高崎駅のベンチに横になり、タバコを吸いながら世間を煙たがる毎日に嫌気がさしていた頃だった。

寝返りもできないような硬い大理石のベンチは、少しずつ俺の体温を伝導して暖かくなっていくのがわかる。

誰かが捨てたマックの食いカス、投げ捨てられたタバコの吸い殻、平日のど真ん中に酔い潰れて寝てる人、もしくは家のない人達。

みんなリアルだ、そしてみんなくだらない。

俺は今どこに行くべきなのか、何をすべきなのか、こうして世捨て人の真似事をしているだけで満足なのか。

くだらない考え事を、無駄とも言える時間の中し続けている自分にも、さらに嫌気がさした。

明日(日付が変わって今日)はついに携帯が止められるらしい。

俺の事だ、どうせ寂しくなれば、また世間に戻ってくるだろう。

それまではこの世間と逸脱した、どうしようも無くくだらない日々を過ごしていくんだろう。

誰かが光を差し込んでくれるわけもない。

誰かが俺に道を指し示してくれるわけでもない。

ただ一つ言えるのは、このままじゃダメだって事。

寝て起きて、また逸脱した明日が来る。

それまで覚えていれば、この腐りきった脳みそも、少しはまともに思えるんだろう。

遠くで電車の走る音が聞こえる。

風にのって俺の耳にも聞こえてくる。

口笛を吹いてみた。

乾燥してカピカピの唇から吐き出されたそれは、暗く、切なく、くだらない世捨て人のセレナーデだった。