幸運の女神?たぶんもう抱いたぜ

幸運の女神には前髪しかない。

とはよく言ったものだと思う。

都合のいい事だけ目に入れやがってよお。

お前の信じてる幸運の女神様。

今頃どこぞの誰かの上で腰振ってるよ。

ご自慢の前髪汗まみれにしながらね。

浮気者だよ、とんだアバズレだ。

掴み取ってむしり取ってやろうぜその黄ばんだ前髪。

そんでみんなでファックしに行こうぜ。

「アイラブユー」ってよお。

ファック!ファック!!

って言いながら一晩中犯してやろうぜ。

その脚にぶら下がったオモチャみてえな下着。

さっさと履いて部屋から出ていけよ。

名前なんて覚える気はねえ。

ああ、麗しの女神様は、明日は誰の上で喘いでいるんだろう。

まあ俺の上じゃないのは確かだけど。

Fuck you bitch! But I love you.

 

ま、いっか

ぷらりぷらりとタバコを買いに街に出て。

今日は早く帰って映画でも観よう。

酒も飲まずに寝てしまおう。

普段ならたぶん出ない着信。

飲みの誘い。

ま、いっか。

駅に目的地を変更、ぷらりぷらりと向かう。

交差点で好きな男とすれ違う。

「あ、ねえ、企画やるから遊びきて」

「おう、行くよ」

アイツのサムズアップがしっかり見えた。

神様はクソだよ、アイツをカッコよくしたのは一番の罪だ。

駅に向かう途中、また電話が来る。

「なにしてる?渋川で飲むけどまだ電車あるよ」

「おーい、10分前に言ってくれてればそっち行ってたよ」

電話くれた女の子はすごくいい奴だ、後輩だ。

「可愛くなかったらデコピンで泣かしてたわ」

またな。

お互い次への約束。

ま、いっか。

足が行きたい方に行けばいいよ。

 

やれやれ、似たもの同士

「おいおい、頭も悪けりゃ口も悪いと来たか」

勘弁してくれよ、とアイツは項垂れながらそう言った。

「だーあ、うるせえんだよこのタコ」

持っていた中ジョッキが思わず手から滑り落ちそうになり、俺は慌てて口に運んだ。

口と脳みそがアルコールに支配され始め、少しづつ本心というコアが顔を出し始めている2人の会話は、とても5年ぶりの再会とは思えないほど、饒舌に端的に近況報告をしている。

「まー、結局のところ」アイツは口を開いた。

「お前はどこに行っても何しても変わんねえよ、孤独だー、独りぼっちなんだーなんて嘆いてるフリしてりゃ、自然と周りに人が寄ってくる、そういう男なんだよ、お前は」

山芋を箸でブスリと刺して、アイツは俺を指差す。

「そんな赤い顔して箸で人を指差すもんじゃねえ、箸はこう使うんだバカヤロウ」

俺はそう言いながらマグロをつまむ。

走馬灯のような、はたまたテレビの生放送のような、妙にリアルで妙に他人事のような思い出が、食べ過ぎた唐揚げの胸焼けと一緒に込み上げてきた。

あー、早くタバコ吸いたい。

久しぶりに会う仲なのに、もっとこう、まともな話はできなかったのだろうか。

高崎着を告げる車内アナウンスが流れ、俺は席を立ちながらぼんやりとそんな事を考えていた。

「どこ行っても孤独、ね、どこにいても手放せねえ性分だもんで」

雨が上がったアスファルトは薄っすらと月明かりが反射していて、季節外れのイルミネーションを彩っている。

「どこでもいいよ、ま、行こうか」

プシュッ。

どこにいても、缶のハイボールは美味いんだから。

無駄のない無駄

情報が多すぎる。

ノイズが多すぎる。

アンテナを伸ばした先の周波数、あってないような無駄の多さ。

スマートフォンに踊らされ、情報に踊らされ、ありもしない恐怖政治に統治され。

匿名の暴力、顔のない人々。

日々日々加速するウイスキーの量と日々日々加速する苦々しい怒りの純度。

無駄のない無駄な事が多すぎる。

鋭利過ぎるビジョン。

俺の将来の夢。

スマホなんか持ちたくねえ。

ドカンと一発ここからいなくなるんだ。

そんでもってマネージャーが俺を管理すればいい。

無駄、無駄、無駄ばっかり。

かと言ってリセットする程の度胸もねえしする程の人生でもない。

ここぞとばかりに無駄にキック蹴り回して、無駄にスロットル捻ってぶん回すんだ。

ガソリンも残りわずかなのか、まだ少しあるのか。

ここからいなくなるんだ。

今すぐに、猫だけ連れて。

イピカイエー、どうにでもなりやがれ。

たぶん、駄文

バンドを始めた。

新しいロックバンド。

馬の合う連中と極め合った曲ができそうなロックバンド。

すげえよ、たまんねえよ。

オレが1番下手くそなんだもん。

そういうと「いや、俺だよ」「いやいや、俺だよ」と上昇志向の塊みてえな連中が集まった。

奇跡だ。

謙遜とか社交辞令とかそう言う鼻糞目糞耳糞歯糞みたいな気怠いものじゃなくて本物の、目ん玉の色から違う力強い否定。

こう言うバンドがやりたかった。

止まってる暇があったら何か動き出せ。

「腐ってる場合じゃねえ」

次のライブもどんどん決まって来た。

嬉しい。

高校生の頃の初ライブが決まって、それに向けて曲作って一生懸命尖ってた頃を少し思い出した。

てっぺんひっくり返すんはこれからだ。

なにとぞよろしく。

さらば愛しの大統領

今日、引越し作業で長年付き添ったベッドとお別れすることになった。

ありがとう。

木端に分解された、かつてベッドだったそれに俺は思わずお礼を言った。

夜、自分の部屋の床に布団を敷いた。

ベッドがあった場所に目をやると、段ボールの山が積み重なって今にも崩れそうになっている。

俺は再度天井を見つめた。

俺の部屋の天井、こんなに高かったのか。

少しづつ、フローリングが暖かくなってきた。

神も仏も、大宮も

 


*これは実話を面白おかしく誇張している内容です。あしからず。

 


大宮で友達と飲んでた。

一軒め酒場、メガハイボールを片手にああでもないこうでもないを繰り返し、積もる話とみにならない話であっという間に時間は過ぎていった。

また次も会う約束と今日は楽しかったという喜びと感謝をお互いに告げ、そのまま飲み会はお開きになった。

オレ自身、次の日はそのまま東京に遊びに出る用があったのでその日は大宮に一泊する予定でいた。

漫画喫茶なりファミレスなり寝られるところはたくさんあるだろうとたかを括っていたのだが、どうやら世間の常識とは随分ソリが合わないようで、漫画喫茶はどこも満室、空室になる目処も付いていない、との事。

カフェは令和も5年にもなれば24Hではなくなっている。

「仕方ねえ、たまにはまた路上で寝るか」

フラフラと大宮駅回りを散策しつつ、駅の方まで戻ってきた。

しかしここでも思ってたのとは違った。

ホームとまではいかないが、駅構内であれば少しはあったかいだろうと思い来てみたのだが、ホームレス対策なのか治安の悪さの露見なのか、シャッターがウォーキングデッドのワンシーンみたいにビッチリと閉じられていた。

全ての入り口という入り口を閉鎖された大宮駅は少し不気味な光を放って、奇妙な存在感を醸し出していた。

ふう、仕方がない、ここで寝るか。

シャッターが閉じた東口階段横で1時間でも眠れればと、韓国の土下座の様な格好で眠りについてみた。

楽しかったな、また遊びてえな、あの子は今頃何やってるんだろうか、そんな事を考えながらボーッとしてたら、どうやらそのままうとうとと眠ってしまったみたいだった。

このとき、時間はしっかり把握してなかったのだけれど、おそらく小一時間は眠っていたみたい。

「こんばんわ」

ほどなくして、ぽんぽんと肩を叩く柔らかい衝撃と、馬鹿程に丁寧な野太い声によって起こされた。

「あ、おやすみ中すいません、警察です」

自己紹介どうもありがとう、見ればわかるよ。

「座り込まれてたのでどうしたのかなって思って声かけさせてもらいました」

歳は30ちょい過ぎくらいだろうか、優しそうな顔とデカ過ぎやしねえか?とツッコミを入れたくなるメガネをかけた男と、その少し後ろには40過ぎか、柔道技でヒグマでも締め上げられそうなガタイのいい、いわゆる大男って奴が立っていた。

「あ、ご苦労様です」

自分でもビックリするくらいちゃんと受け答えしていて偉いと思った。

こればっかりは流石に親に感謝。

「お酒飲まれてましたか?」

「あー、友達と飲んでたんだけど、泊まる場所無くってさ、そういえば寒すぎて死にそうだ」

「そうですよね〜、風邪ひいちゃうと大変ですよ」

「んー、起きるよ、起きる起きる」

オレは母親と会話しているのか、今思うと態度の悪いガキだと思われただろう。

朦朧とする意識の中、内ポケットにしまってあるタバコを一本取り出した。

路上喫煙禁止!とペンキで塗られたシャッターの前で、警察2人に囲まれてタバコを吸っている様は、さながら警察24時の悪い事してる奴みたいに思えた。

「タバコダメなんですよ、それ吸ったら消してもらってもいいですか」

「あ、すいません、あ、もう起きたんで大丈夫ですよ(一本吸うのはいいのかい!)」

「そうですか、よかったです、一応なんですけど危ないものとか持ってないかだけ見させてもらってもよろしいですかね」

「ああ、どうぞ、何もないですよ」

「ありがとうございます」

そう言って若い方のお巡りさんは俺の体をぽんぽんと触り始める。

「靴も脱いだほうがいい?」

なんだか楽しくなってきたオレは、お兄ちゃんポリに話しかけたけどしっかり無視された。

無視は良くねえよ、ずいたオレも悪かったけどさ。

もちろんオレの持ち物からは何も出てくるわけもないし、なんならおちんちんまで出してやろうかといつでも準備していたのだけれど、特に面白いイベントもなく職務質問は終わった。

「ありがとうございました、身分証お返ししますね、そしてどこか今からでも室内で寝られそうなところはありますか?」

コイツ無視はするけどいい奴だった。

心配してくれてありがとう、実はこうでこうで満喫が満喫してましてカクカクシカジカ四角いムーブ。

なぜ路上で寝ていたのか旨を話して職務質問は終わった。

コーヒーでも奢ってくれればよかったのに。

あいよご苦労さん。

さて、いよいよ身体が心底底冷えしてブルブルと勝手に震えている。

本当にどこかに転がり込めるところはないのかと再び駅の周りを散策。

程なくしてキャッチのにいちゃんがヤクザな客商売をしているゾーンに差し掛かった。

「オニャガァルヴェイエイ?」

「え?」

「オニャガァルヴェイエイ?」

「…はい?」

「オニイサン、ガールズバーオサガシデスカ?」

ようやく聞き取れた。

刈り上げ過ぎてもはや奥歯みたいな髪型になってる小太りのオッサンがキャッチをしてきた。

「あー、あ、探してないです、寝る場所ってないですかね?」

「ムァ、ソクァームカラレカラオケァムラモハマガリカイデェウルヨ」

「ふむふむ、そこのコンビニの横の階段を上がっていけばカラオケ屋があるのね?ありがとう、行ってみますね」

「ムァ」

我ながら良く聞き取れたと思う、オッサン、しっかり前歯が無かった。

シンナーかな、程々にね。

これからは人に優しくされるといいな。

ありがとうね。

ホントかよ、と半ば思いつつ、オッサンに指さされた通りに進んでみると、人は見かけによらず真実を話してくれるもんだ。

高崎Trustくらい急な階段の先で、カラオケという文字が雑にぶら下がった看板に書いてある。

オンボロ看板が、何故か今は楽園に見えた。

オレはとりあえず眠たかった、もう少し暖かければそのまま寝続けたものだが、大宮のビル風は少し、田舎者には冷たかった。

オンボロ看板の向こうのドアを開けて、中に入ってみると外観とは裏腹に意外としっかりカラオケ屋さんだった、店員さんの顔はしっかり覚えていないけれど、ハキハキとした感じのいい接客をするお姉さんだった。

「お客様会員様ですか?」

「いや、お客様です」

「当店会員制になりますので、先に会員登録からお願いします」

と白い綺麗な手が紙を差し出してきた。

何でもいい、どうでもいい、早く寝させてくれと寒くて握力の無くなった指先でボールペンを走らせた。

ガタガタと震えながらミミズがのたくり回った様な文字で自分の身元を描いていく様は、店員さんから見ても気色の悪いものであっただろう、髪はボサボサ、貧乏人の様な見た目(これは間違いない)、今はもう眠りにつきたいだけの屍と化したオレは、会員登録についての説明を空返事だけで終わらせてしまった。

「お待たせしました、このフロア突き当たり4番になりますね」

ここから先は記憶が曖昧なのだが、部屋に着くなりベンチソファーに飛び込んだ。

あーーーーと長いため息を吐き終わる頃、カチャリと部屋の扉が閉じる音が聞こえた。

決して寝心地がいいとは言えない、ビニール素材のそのソファーは、今はおっぱいよりも優しさにあふれる物に感じられた。

隣の部屋のギャルは、絶妙にズレたピッチでCrazy for you.を歌っていた。

同い年くらいか?世代がバレるから程々にな。

ポケットに突っ込んだジャリ銭をテーブルの上に置き、携帯のアラームを2時間半後にセット。

貴重な全財産を寒さを凌ぐために使う自分を強く恥つつ、大切に折りたたんでポケットに突っ込んである札は、靴の中に丁寧に押し込んだ。

見知らぬ土地で野宿するときは、靴の中に有り金の全てを隠す、貧乏人の鉄則だ。

もうダメだ、眠たい…。

暖房がゆっくりと部屋中に回り始め、暖かさを背中に感じつつ、俺は丸まって静かにソファーに沈んでいった。

 


ピピピピ、ピピピピ。

体感的には5分くらいしか寝ていないのではないかと思うくらい、残酷に鳴り響く携帯のアラーム音。

バキバキに固まってしまった左首筋とおちんちんをそれぞれの場所に戻し、少し復活した体力を身体に感じつつ、これでもかと背筋を伸ばす。

一瞬クラッと来てそのままソファーに座り込む、現状を把握して、さっさと部屋を出てしまおうと思い、自分の装備品を思い出す。

携帯、タバコ、お金、靴に入ってる、あとはジャリ銭だけど………?

はて、おかしい、テーブルの上にたしかに置いていたはずの600いくらあったジャリ銭が消えている。

もちろんオレはこの部屋に1人だし、誰かを呼んだ覚えもない。

カラオケ屋さんのシステム的に、客が使っている部屋に事実上入れるのは店員さんだけのはず。

しかしオレが入った料金プランはフリータイムドリンクバー付きで¥1600のプラン、店員さんが注文を持ってきたり部屋に入ってくるイベントはないはずだった。

そうなると利用客の誰かなのか?

まあ確かに薄暗い部屋の中ソファーに小汚いコンバースを履いた脚がだらしなく投げ出されているのを見ると、部屋の前を通りかかった客も「え?死んでるの?」と思い、思わず部屋を開けるって事も考えられる。

考え過ぎか。

待てよ、そうだ、そうだ思い出した、夢現ではあったけれど、確かに部屋の扉が閉じるカチャリっていう音で一瞬意識が現実世界に戻って来ていたのを背中が覚えていた。

つまり、どこかのその一瞬、誰かがなんらかの意図でオレが使っている部屋に入ってきたということになる。

やられた、と思ったと同時にオレは左足の靴に突っ込んだ札をまさぐる。

よかった、これだけは無事だった。

「んー、これ以上オレから何を奪うんだい」

寝ぼけ眼で脳死状態の寝起きでも、こんなにキレキレな事が言えるのかと自分でもビックリした。

たいした独り言だ。

まあやられたものは仕方がない、殺されなかっただけマシだと自分を慰め、少しイラつきながら部屋を出た。

会計を済ませ、靴に突っ込んでいた札をまたいつものポケットに突っ込み、朝7時半の大宮のピンク街に降り立った。

昨夜の雑踏とは打って変わって、たくさんの家族がそれぞれの子供を連れて歩き行き交っていた。

下着姿の女の子が写っている看板の前を、子供を連れて歩くのもどうかと思ったのだけれど、きっとそれも両親なりの行き届いた性教育なのだろうという勝手な解釈で落ち着かせた。

オレはそのまま店の前のファミマに入った。

アゴムと水、ジャリ銭を盗まれたので仕方がなく千円札を崩した。

清々しい程空は晴れていて、雲ひとつとない快晴が、ピンク街の空を覆っていた。

とりあえず暇を潰さなければ。

ペットボトルの水が、この日は今まで飲んできたものの中で1番美味く感じた。

フラカンの深夜高速を鼻歌で歌いながら、一気に飲み干したペットボトルをゴミ箱に投げる。

オレはもう一度これでもかというくらい背筋を伸ばした。

クラッとする脳みそに少し快感を覚えながら、道ゆく子供達に「こんな大人にはなるなよ」と心の中で言っていた。

とりあえず都内に遊びに出かけるまではまだ時間がある、暇を潰さなくては。

ボサボサになった髪の毛達を勢いよく一本にまとめ、買いたてのヘアゴムで縛り上げる。

知らない街、大宮、嫌いじゃないけど難しい街。

もう少しあったかくなったら、また野宿してみてもいいかも。

おかげで少しだけ人間が磨かれたのかなと思い、なんだか嬉しくなった自分がいた。

会いたい人がいる、飲みたい人がいる、それだけでも来る価値があると全てのことに思えるようになった気がするよ、とほほ。